「……へえ、君が彼のお気に入りねえ」
物珍しそうにこちらを見たかと思えば、今度は頭のてっぺんから足のつま先までを舐め回すような視線。品定めされているような、そんな感覚。その様子を、あの男は何も言わずに遠くから見ているだけ。庇う気も、否定する気もないらしい。私も何も言わずにその視線を受け入れることにした。「お気に入り」という言葉は少し違うが、私にここへの居住を許しているということは、あいつが私を少なからず好いてくれているということなのだから。
「……こんなコがタイプだったっけ? 君は」
「そいつは特別。他の奴とは違う」
「ふぅん……」
視線を私に向けたままいくつか言葉を交わすと、来客の男は私の方にゆっくりと近づいてきた。ロングブーツのヒールが床を叩く音だけが室内に刻々と響いて、それが心の奥底にある緊張を煽る。
「ボクは嫌いじゃないけどね」
一瞬、彼の雰囲気に気圧されて後ずさろうとした。けれど、言いながら伸ばされた白く細い手に顎を掴まれ、一歩も動けなくなる。それによって、今までお互い合わそうともしなかった目がはっきりと相手を捉えた。
「むしろ、大好きなんだよね、こういう女」
ぞくり、背中に冷たいものが走る。彼が浮かべた笑みは一見好意的だったけれど、濁った何かが潜んでいるような気がした。擬音で表すなら、にやり、というのが一番合っているだろう。
誰なんだ、この人。
「ねえ、この子、ボクに頂戴よ」
(貴族の家にもらわれた少女と、主人と、主人の旧友、みたいな)
(08/03/20)