背中を向けた彼に、ふ、と、両手を伸ばす。そして、顔の近くまで来ると、彼の両目を隠すように、手のひらで彼の顔に触れた。彼は、目を覆われてからやっと気付いたようで、かすかに驚いてぴくりと反応する。けれど、抵抗はしなかった。
「お前、手ぇ冷たい」
穏やかな声で、そう呟いただけ。
「しょうがない、末端冷え性だからね」
言いつつ、からからと笑う。先ほどまで洗い物をしていた手が、たった数分で熱を取り戻すはずもない。特に今、目の辺りに触れている手のひらは冷たいなんてものではないだろう。一方、炬燵に入って目の前のテレビを見ていた彼の顔は丁度いい暖かさだ。触れているだけで心地よい。
「……で?」
「何?」
「や、前見えないんだけど」
「見なくていいよ」
「へ?」
「見なくていい」
ふふ、と笑ってみるけれど、彼の視界が塞がれているのをいい事に、目の前の画面に映るクラビアアイドルの可愛らしい顔を睨み付けた。最近バラエティによく出演している彼女は、彼のお気に入りらしい。可愛い、なんて言葉にこそしないものの、画面に彼女が映るたび、ずっと目で追っている。確かに、女の私から見ても可愛いとは思うけれど、だからといって許せるかといったら話は別だ。
恋は盲目、なんて誰が言い出したか知らないけれど、確かにこの気持ちは自分でも手に負えないくらい我侭で、時に理性が吹き飛びそうになる。彼の目に映るのは私だけでいいとか、むしろ他の人をそんな風に見つめないで欲しいとか、そんなことを考えてしまうのだから。
ただ傍にいられるでは満足できなくなってしまった。その瞳に映るのも、その頭を巡る思考端から端までも、全部欲しい。私だけに染まって欲しい。それは傍から見たら少し狂っているのかもしれない。けれど、誰かに依存するというのはそういうことなのだ。自分が相手に夢中になっている分、相手にも同じように、相手にも同じくらい自分に夢中にってもらいたい、と。
「……目逸らしてると、どうなっても知らないから」
「へ?」
「なんでもなあい」
ぱっと彼の顔から手を離して、にっこり微笑む。そんな私に怪訝な顔を向ける彼を尻目にテレビのリモコンに手を伸ばすと、ボタンを押して別のチャンネルに変えた。
ああ、遮ったのは彼の視界なはずなのに、何も見えなくなっているのはどうやら私のようだ。
「愛してる」の定義
(余所見をしないで、私だけを見ていてください。)
みくしーでリハビリ用に書いたもの。
恋は盲目ってガチだよね。(2009.05.01)